Public Relations

メディア向けの会社案内「ファクトブック」の作り方

広報ツールのひとつに「ファクトブック」というものがあります。

ひとことで言えば「メディア向けの会社案内」のこと。大企業だと作っているところも多いのですが、小さい企業はないかもしれませんね。営業が使っているセールス資料、経営者が使っている投資家向けピッチ資料などを流用している……という声も聞きます。

でも実は、メディアが欲しい情報は必ずしもそこには載っていません。余力があれば、きちんとアレンジしたものを作るのがおすすめ。

プレスリリースの書き方などはノウハウが溢れていますが、この「ファクトブック」についての情報は少ない……。メディア向け会社案内の作り方をシェアします。

メディアに向けた「ファクトブック」とは何か

Factbook 5ファクトブック=FACT BOOKなのですが、実はこれは和製英語で、グローバルには通じません……。

まあニュアンスはわかると思うのですが、「事実をまとめた本」みたいな感じです。メディアが取材を具体的に考えてくれるよう、ファクトをぎゅっと詰め込んだブックレットとして提供するようなイメージです。

日本パブリックリレーションズ協会の説明がこちら。

「会社の経営内容や財務状況、業界におけるポジショニングなどの事実関係(ファクト)を図表などを使って客観的に記載した冊子。会社案内の一種だが、アナリストや機関投資家、報道機関などを対象に、年に1回発行される。最近は、会社の沿革や関連市場の動向なども収録した手帳サイズのファクトブックを社員向けに作成するところも出ている。」
出典:日本パブリックリレーションズ協会

「投資家向けIR資料」といわれたりもしますが、もう少しカジュアルなものも最近は多いんです。でも、現役広報さんでも知らない人がけっこういる。。

広報の活動といえばプレスリリースの配信がわかりやすいですが、メディアが取り上げるのは必ずしも最新ニュースばかりではありません。会社のことを濃く・深く知ってもらい切り口を一緒に探せるようになるために、ファクトブックの存在は大事です。

「通常の会社案内」と「ファクトブック」の違い

Factbook 1

よくある会社案内と大きく違うのは、「誰が読むか」のターゲットの部分です。

会社紹介資料の目的として、

  • 営業目的→商品やサービスを売るため
  • 採用目的→社員を採用するため
  • IR目的→投資先として検討してもらうため

のように様々ありますが、ファクトブックはこのどれにも当たりません。

主なターゲットはメディア。広報として直接編集部などを訪問してプレゼンしたり、記者さんと知り合ってメールでやりとりしたりすることがあると思いますが、基本的にあとでじっくり見てもらう「読み物」の体裁を意識します。

メディア向けなので、普通の会社案内には入れないような「ファクト」をてんこ盛りにして濃くします。「メディアや社会が求めている情報」を別切り口で盛り込んでいく感じです。

  • 自社を取り巻く環境や業界全体を含めて、深く理解してもらう
  • 実際の数値データを示して、具体的な取材内容を考えてもらう
  • ビジュアルも活用しながら社内のストーリーを見せ知ってもらう

この3つがポイントになります。

メディアリレーションズの記事にも書きましたが、最近はテレビ制作・新聞記者といった従来のメディアだけでなく、個人の発信力も高まっています。自分がこの会社について何か発する立場ならどのへんが気になるかな?という視点が大事です。

フォーマットはA4縦横、広報自ら編集できるように

Factbook 6メディアにとっては情報鮮度が命!なので、随時アップデートして使っていきます。そのためパンフレットほど作り込まなくてOK。広報担当が自ら編集できるようにパワポなどで作り、オフィスの複合機でいつでも印刷できるのがいいです。

パンフレットにすればきれいですが、文言を固めて社内チェックを受けて、デザイナーとやりとりして、納品して印刷して、って大変です。

でもメディア向け資料は、企業の規模にかかわらずそれをやる必要はありません。なぜかというと、

  1. スピード感をもって作成する
  2. 手軽に編集ができる
  3. いつでも印刷ができる
  4. データが軽く簡単に送れる

ことのほうが大事だから。

サクッと作り、ガンガン使い、反応を見ながら改善を重ねていく、プロトタイピング思考でいきましょう。

フォーマットはA4縦のブックレット形式か、A4横のプレゼン資料形式、どちらでもOK。最近は自分のラップトップや先方のプロジェクターで見せたりも多いと思うので、横型がいいかもしれません。

世界観をデザインでしっかり伝えるのもあり

Factbook 4

どこまで時間とリソースを割けるかにもよるのですが、

「世界観を伝えること」
「グラフィックで魅せること」

も効果的なので、社内デザイナーがいるなら巻き込んで作成するのがおすすめ。外注する場合は広報担当がしっかり構成を決め、パーツごとに作ってもらうようにしましょう。(全面イラレとかだと、編集がつらくなります)

最初は手作り感満載のパワポ資料でいいと思うのですが、ゆくゆくは軽くパンフレット形式に近づけていってもいいですね。

「メディア向け会社案内」だから入れたい要素

Factbook 3ここから本題ですが、「メディア向け会社案内」だからこそ入れるべき要素がいくつかあります。

他のステークホルダーに対するときと「発想の視点」が違うので、自分がメディアの人間になった気分で、自社のことを掘り下げてみましょう。

  1. とにかくファクト重視
  2. 数字データを赤裸々に
  3. 社長のプロフィール濃い版
  4. 読み物としての創業ストーリー
  5. 自社を取り巻く社会情勢
  6. 業界動向・競合情報は強めに
  7. これまでのメディア掲載
  8. 取材・掲載の提案をする

 

とにかくファクト重視

メディアにとって、きれいなコピーや宣伝文句は大事ではありません。とにかくファクト!ファクト!

ファクトってなんや、と思うかもですが、まあ文字通り「事実」です。実際にどうなのか、という部分。統計や実験、観測などによって得られた事実など。

そんなんまだないよ……という人も、「ファクト命」を念頭に置いて作成すれば、少なくとも胡散臭い資料はうまれないはずです。

数字データを赤裸々に

ファクトに関連し、入れるといいのが「数字で見る◯◯社」みたいな項目。

従業員数、社員数、創業年数、法人顧客数、ユーザー数、男女比率、年齢層比率、アプリダウンロード数、会員数、店舗数、販売個数、売上利益(出せる範囲)

など。通常の会社案内にはあまり載ってないですよね。「リリースから1ヶ月で3万ダウンロードを達成!」みたいな、インパクトのあるものが出せるとなおいいです。

数字が1〜2ページにまとまっていると、メディアの人は嬉しい。ここは一番「こまめな更新」が必要なページなので、注釈的に(※2019年9月時点)と入れるのも忘れずに。

社長のプロフィール濃い版

「インタビュー取材」を想定して、社長や創業者のプロフィールをマシマシに載せておきます。

軽く経歴をさらったショートプロフィールも載せつつ、取材を考えているメディアさんにが気になってくれそうな「引っ掛かりポイント」を多数散りばめておくのがおすすめ。

何がフックになるかわからないので、プライベートの趣味とか、休日の過ごし方とか、愛読書や好きな映画とかも載せてOK。「人物像」が想像できることが大切です。

余談ですが、ある雑誌に「社長の手土産」という、企業の社長がいつも持っていく手土産を紹介するコーナーがあります。あと、最近では家族などプライベートな事情も含めて「働き方」を取り上げるような企画もトレンドです。

また、ここは文章力のテクニックなのですが、

「全部を伝えきらず、取材して聞いてみたくなる余白を残しておく」

という感じも大事ですね。濃〜いプロフィールを、1〜2Pくらいで。

読み物としての創業ストーリー

PRに大切なのはストーリーです。メディアが伝えたいのはストーリー。

ユニークな創業秘話や原体験をしっかりストーリー仕立てで書いてあげると、けっこうメディアの方は読んでくれます。

3000字のインタビューとかにする必要はありませんが、A41ページでほどほどに濃く読めるものがあるといいです。最近では事前にオウンドメディアなどで書いて、それをペーストしておくのもいいですね。既にメディアにインタビューしてもらった!という幸運な会社さんは、その記事を添付してもOK。

自社を取り巻く社会情勢

自社がビジネスをしていくうえで、どんな社会情勢と向き合っているのか?をタイムリーに掲載します。

たとえば、

「最近、働き方改革の波が来ています。政府もこんな方針を出し、2025年にはこうなるってデータも出てる。だから弊社のツールにはこういう可能性があって、活用されると世の中はこんなふうに変わっていくと信じてるんですよ」

て感じのテンションです。

こちらも「ファクト命」を心がけ、調査データなどを引っ張ってきて、今起きていることを常にアップデートしつつ、自社のビジネスが身を置いている環境を立体的に示すとよい。

業界動向・競合情報は強めに

業界内での立ち位置や、競合との差別化ポイントを示します。

ここで「面白い背景はわかったけど、なぜ今他ではなく、この会社を取材するのか」というハードルを潰していきます。

メディアは宣伝屋さんではないので、他に似たような取材先があればそっちを検討します。必ず社会との関連性のなかで会社を見るので、どんなに利益を出してお客さんに喜ばれていようが、取材する決め手にはならないのです。。

業界動向はメディアの方より自分たちのほうが詳しいはずなので、情報提供をする姿勢で、競合なども包み隠さず紹介しましょう。よく4象限の図を使って自社のポジションを示すのがありますが、あれはいいですね。

これも汎用的な(とくに消費者の目に触れる)会社案内にはなかなか入れない内容で、だからこそとても大事です。

これまでのメディア掲載

今までにもメディア掲載があれば、その記事などを載せます。

こんなふうにメディアに紹介されています!という報道履歴は、いずれにせよリサーチされます。過去にあったような記事を出してもつまらないですからね。

その取材で特に注目してもらえたポイントだったり、報道の結果でアクセスが上がったとか反響があったとか、「自社しか知り得ない情報」もプラスしておくといい感じ。

SNSの声などもエゴサして拾いまくって、キャプチャを貼っておきましょう。

取材・掲載の提案をする

最後に、取材・掲載をしてもらえるように一押しです。

どんな取材ができるのか?どんな画が撮れるのか?を、ビジュアルとテキストで示します。撮れる画はあるだけいいので、「工場見学もできます」「実際に導入されている企業にお連れします」「関係しているA社やB社にも話が聞けます」など提示されていると素晴らしい。

ただし、東京の会社なら東京近郊で。なかなか北海道まで取材には来てくれません。。

まとめ:意外とメディア向けのものは表に出てこない!

Factbook 2以上、メディア向け会社案内「ファクトブック」の作り方でした。

ファクトブックを作ることで自社について改めて知るきっかけになるので、広報担当者の理解を深める意味でもいいですよね。いろんな人を巻き込んで情報を集めることで、インナーコミュニケーションにも効くという、一石三鳥くらいのプロジェクトになっております。

時間はかかると思いますが、日頃からコツコツ作っていくといいかも。

この「ファクトブック」というものについては調べてもテンプレートなどが全然出てこないので、ここまで読んでもイメージの湧いていない人もいるかもです。裏では出回っていて、クローズドな勉強会とかでシェアされている気がします。

私もまだまだ精進中ですが、よければ監修しますので、CONTACTよりご連絡ください。

手紙のように想いが届く、プレスリリースのすべて【全11記事】広報PRを始める人が最初にぶち当たる壁は、プレスリリースの作成・配信です。 プレスリリースとは、メディアや各ステークホルダーに向け...
プレスリリースと使い分けるべき広報ツール、「ニュースレター」についてプレスリリースでもニュースリリースでもない広報ツール、「ニュースレター」についてです。 ニュースレターにはいろんな解釈がありますが...

 

おわり。

RELATED POST