Netflixで社会派ドキュメンタリーをよく観ています。なかでも「ヴィーガン」「ヴィーガニズム」について学ぶのに適したコンテンツがいくつかあるなと思ったので、まとめて紹介したいと思います。
ヴィーガニズムは日本ではまだまだ広まっていないし、強い思想をもった一部の人のためのものと思われていたりもするけれど、ぜひ現実を知って選択肢に入れてみてほしいなと思います。
ヴィーガンって結局何なの?という人から、ヴィーガンに興味があるけどもう少し知識がほしいと思っている人まで、まずはじめの取っ掛かりとしてよさそうな4本のドキュメンタリーフィルムを紹介・レビューしていきます。
※なお、人によってはネタバレと感じられる可能性のある表現を含みますが、ドキュメンタリーフィルムはストーリー以上に実際の映像を見ることに意味があると思っているためご理解ください。
Contents
ヴィーガンについて知るならNetflixドキュメンタリーがおすすめ
日本では「ヴィーガン」について偏った発信をしている人もいなくはないので、まずはいくつかドキュメンタリー(=なるべく事実に基づいたもの)を観ておくと、その後に触れる情報の判別も迷いが少なくなっていくと思います。
今回まとめる4作品は、「ヴィーガン」というテーマを起点に撮ったというよりも、食・栄養・畜産業・漁業などの領域にある「世の中の不都合な真実」を暴いていったら、「ヴィーガン」という選択肢が人間にとって一番よさそうだという説に行き着いたというのが共通した流れです。
隠されていたことがどんどん明らかになっていくドキュメンタリーフィルムなので、制作にはリスクもあったと思います。制作チームはもちろん、これを配信する判断をしてくれたNetflixさんも素晴らしいですね。
映像として見るとデータなどの難しい話もすっと入ってくると思うので、まずは時間をとってこの4本をじっくり観てみるのが第一歩としておすすめです。では紹介していきます。
The Game Changers:ゲーム・チャンジャー
筋肉の発達には、本当に肉食が必要なのか? UFCで戦った総合格闘家が科学者やトップアスリートに話を聞き、菜食の驚くべき効果と秘められた可能性を探求する。
2018 | 1h 25m | Documentary Films
「菜食主義でも強くなれる」というストーリーです。格闘家やボディビルダー、ウェイトリフターなど、見るからに強そうなムキムキの男性が出てくるのですが、実は彼らは肉や魚などの動物性食品を一切食べない完全なヴィーガン。なのに見た目もパワーも、人間のMAX級まで鍛え上げられています。
そのインパクトのある事実から始まり、実は古代ローマの剣闘士たちは皆ヴィーガンだったのでは?という仮説が出てきます。骨を調べてみると、動物性食品を摂っていた形跡がないそうです。
そこから研究結果のデータをもとに、人類は本来「草食動物」であり菜食だけでも十分な栄養素が摂れること、アスリートのような強靭な肉体をつくるために動物を食べる必要がないことなどが明らかにされていきます。
具体的なデータや根拠のある話で展開してくれるので、ヴィーガンの食スタイルがいかに私たち人類に合っているかを、栄養や健康の観点からも体系立てて知ることができます。
「肉を食べずに、どうやって雄牛のような強さを手に入れたのかと聞かれるけど、雄牛が肉食ってるの見たことないだろ?」
という世界最強のウェイトリフターの言葉が印象的です。
そうか……。お肉って必要なかったんだ……。とシンプルに納得できます。
▼予告編 / トレイラー
Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密
地球の資源を破壊する工場式農業。地球環境保護を唱える環境団体がこの深刻な問題に触れない理由とは? 環境問題のタブーに鋭く切り込むドキュメンタリー。
2014 | 1h 30m | Documentary Films
2014年に公開された、あまりにも有名で衝撃的なドキュメンタリーです。
Cowspiracyという聞き慣れないタイトルは、Cow(牛)+Conspiracy(陰謀)をかけ合わせた造語。食用牛の裏に隠された陰謀を暴いていくドキュメンタリーフィルムで、危険な領域にまで切り込みすぎていて公開時には話題になりました。
幼い頃から環境問題への意識が高かったキップ・アンデルセンという男性が、節電などの対策に頑張って取り組んできたにもかかわらず状況はむしろ年々悪化していることに疑問を抱くところから始まります。実は気候変動の大きな原因は「畜産業」にあることに辿り着きますが、同時にその事実にどの環境保護団体も触れていないことにも気づきます。
その背景には、スポンサーによるお金の流れが隠されていて、要するに「環境保護団体が畜産業からスポンサーを受けているから“肉を食べないことが一番だ”なんてとても発信できない」という事実があるのです。
実はこの映画、レオナルド・ディカプリオがエクゼクティブ・プロデューサーを務めているのですが、その経緯もそれに関係しています。キップが撮り進めていった結果、あまりにもタブーな領域に触れすぎ、制作の途中でスポンサーから制作資金援助を打ち切られてしまったのです。そこに救世主として現れたレオさんの援助によって、なんとか公開に至ったという感じです。
制作者の意図と仮説が濃いめに出ているドキュメンタリーなので、このまま鵜呑みにしろとはいわないのですが、こういう見方がヴィーガンの背景にあることを知っておくのは大事だと思います。
▼予告編 / トレイラー
What the health:健康って何?
食物は健康と密接に関連し、深刻な病の原因にもなりうる。食の健康被害を追求し、医療、製薬、食品の各業界が抱える数十億ドル規模にも及ぶ問題に鋭く迫る。
2017 | 1h 32m | ドキュメンタリー映画
「Cowspiracy:サステイナビリティ(持続可能性)の秘密」の続編です。3年後の2017年に公開されました。
前作が「畜産業の闇」に迫っていたのに対し、今回は「人間の健康な食事」にフォーカスを当てています。現代はさまざまな生活習慣病が蔓延し、あちこちで「健康」に関するノウハウやアドバイスが溢れていますが、そもそも「健康って何?」というのがこの映画で扱っているテーマです。
前作と構成は似ていて、キップ・アンデルセンが抱いた疑問をもとに、さまざまな組織や企業にインタビューを申し込みます。そこで話を聞けたり断られたりしていくなかで、本当の意味での「健康な食事」がだんだん見えてきます。
この映画で描かれる主張は、肉食をはじめ動物性食品を摂ることは、実は人体へのリスクが大きくそもそも必要ないことだというもの。加工肉は発がん性物質を含むとか、怖くなるような描写が目立ちます。一番目に紹介した「The Game Changers:ゲーム・チャンジャー」を先に観ておくと、このあたりの主張も理解できると思います。
データを見やすいインフォグラフィックスで説明してくれて難しい話も理解できるのは前作同様。結論も同様に「ヴィーガンになるのが最善だ」という方向になっています。
記事の最後で補足しますが、すべてを鵜呑みにすることはないと思います。ただ、「これからの人生、何をどう食べて生きていくのがいいんだろう」と考えさせられます。スーパーでパッケージ化された商品だけが食べ物ではないし、自分が口にするものは自分の手で仕入れること(いわゆる自足自給)も少し現実味を帯びて見えてきます。
食べるものが自分という人間をつくるので、よく考えないといけないですね。
▼予告編 / トレイラー
Seaspiracy: 偽りのサステイナブル漁業
愛する海の生態系を守りたい。そんな思いで、人間が海洋生物にもたらした弊害をカメラに収め始めた映画監督がたどり着いたのは、世界規模の隠ぺい工作。
2021 | 1h 30m | Documentary Films
最後4本目として紹介するのが、2021年3月24日にNetflixで公開されたばかりのドキュメンタリー。
肉を食べないほうがいいことはわかった。野菜だけでも十分に栄養が摂れることもわかった。だけどいきなり完全菜食に振り切るのは難しく、いろいろ模索したいのが人間です(今の私がまさにそれ)。そんな頃にちょうどよく、今作は「魚」「漁業」がテーマとなっています。
ちなみに今作は監督が違うのですが、作りはCowspiracyやWhat the healthと似ています。畜産業も相当マズそうでしたが、漁業もなかなか闇が深いようですね。言葉としては日本人もなじみがある「捕鯨」「シーシェパード」などのトピックも出てきて、商業漁業がいかにして海洋生態系を破壊しているか、そして環境保護団体と漁業領域企業の癒着などを暴いていきます。
プラスチックの漁業網が最も海洋汚染の原因になっていることや、混獲・乱獲などでどれだけの命が犠牲になっているかなど、地球環境の面からの話が中心です。一方で、漁船に乗る人たちが人身売買されて奴隷としてどんな扱いを受けているかなど、人権などの観点からのサステナビリティにも切り込みます。
結論としては「サステナブルな漁業・漁法など存在しない」ということで、やはりヴィーガンとして菜食主義になることしか人類に残された道はない、という主張です。
人間にとって「海」がいかに大切な存在かというのを再認識することができ、今の私自身が海の近くに暮らしていることも相まって、影響を受けた作品でした。
▼予告編 / トレイラー
さいごに:全人類がヴィーガンになるしか地球を守る術はないのか
これら4つのドキュメンタリーフィルムが私のヴィーガニズム観に影響を与えているのは事実ですが、すべてをまるっきり信じて「ヴィーガンこそ正義!」と主張するのも、ちょっと違うのかなと思っています。
まず、どれも制作者の意図と仮説に基づいて撮られ、一定のメッセージ性をもって編集されたコンテンツであることは意識したいと思います。メディアも同様ですが、そこに編集意図が介在することは人間が創っているかぎり当たり前なので、偏りというのは絶対に出てきます。私自身もそれぞれの映画で「ん?」と思う点はいくつかありました。
だから「ヴィーガンになろう!」という主張については、そこそこ賛成ではあるのですが、それしか道がないのかと言われると疑問が残ります。サステナブルな漁業はないというけれど、じゃあ魚を自分で釣って食べるのはどうなんだろう、とか、これまで美味しく食べてきた事実は無視できないから心理的サステナビリティも考える必要があるよなー、とか。
フィルムを信じ切ってしまうのではなく、複数の視点を取り入れながら自分でも調べ、考えたうえで選択していくことが大事なのかなと思います。ヴィーガンやヴィーガニズムについてもう少し知ってみる気がある人は、ぜひ紹介した4本を見てみてください。
▼ヴィーガンコスメについて
▼20種類の菜食主義をまとめた
おわり。